1.拒絶理由通知及び拒絶査定とは?
特許権を取得するためには、発明について特許出願を行い、審査を受けなければなりません。審査において、特許出願に拒絶理由が発見された場合には、拒絶理由通知が通知されます。特許権を得るためには、出願人は拒絶理由通知に書面で応答し、拒絶理由を解消しなければなりません。拒絶理由が解消しない場合、その後に拒絶査定が通知されます。
審査請求された出願の内、ほとんどの出願が一度は拒絶理由通知を受けます。そのため、拒絶理由通知は、特許査定を得るための一つの過程といえます。
2.拒絶理由通知を受けた場合の対応
2-1.応答期間の確認
拒絶理由通知の応答期間は、拒絶理由通知の発送日から60日以内です(在外者の場合は、発送日から3月以内です)。発送日は拒絶理由通知に記載されています。
2-2.拒絶理由の確認
拒絶理由通知には、拒絶理由が記載されています。拒絶理由は、特許法第49条に記載されています。主要な拒絶理由として、次のものが挙げられます。
(1)新規性違反(第29条第1項):発明が公知(公然と知られた状態)である。
(2)進歩性違反(第29条第2項):当業者が発明を容易に想到することができる。
(3)明確性違反(第36条第6項第2号):請求項の記載が明確でない。
(4)サポート要件違反(第36条第6項第1号):請求項に記載の発明が明細書にサポートされていない(記載されていない)。
2-3.拒絶理由通知に対する対応
(1)各拒絶理由を確認し、拒絶理由が妥当か否かを検討します。
(2)審査官の指摘が誤っており、拒絶理由が存在しない場合には、意見書を提出して反論を行います。
(3)拒絶理由が妥当である場合には、拒絶理由を解消するために、手続補正書を提出して補正を行う必要があります。また、補正によって拒絶理由が解消したことを説明する意見書を提出します。
例えば、引用文献1に本願請求項1の発明が記載されているという新規性違反の拒絶理由を受けた場合には、補正によって本願請求項1の記載に変更を加え、引用文献1に記載された発明と差異が生じるようにします。
2-4.その他の注意点
(1)拒絶理由通知に対する応答期間中に、分割出願を行うことができます。分割出願を行うことによって、拒絶理由に対して複数の対応を採ることができます。例えば、拒絶理由通知に対して補正を行わずに反論を行う一方、分割出願において補正した発明で権利化を図ることができます。
(2)応答期間は、期間延長請求書を提出することによって延長することができます。
(3)審査官と、電話、Web、対面により面接することができます。口頭で説明することによって、審査官の発明に対する理解が進むと共に、権利化に関して助言をもらえる場合があります。
(4)拒絶理由通知に応答しない場合には、応答期間の経過後に拒絶査定が送付されます。
3.拒絶査定を受けた場合の対応
3-1.拒絶査定及び拒絶査定不服審判について
拒絶理由通知に応答しなかった場合、又は拒絶理由通知に応答したが拒絶理由が解消しなかった場合に、拒絶査定が送付されます。拒絶査定に不服がある場合には、拒絶査定を取り消すために拒絶査定不服審判を請求することができます。拒絶査定不服審判を請求しない場合には、拒絶査定が確定します。
拒絶査定不服審判では、三人又は五人の審判官の合議体が、拒絶査定を維持することが妥当であるか否かを審理します。
3-2.拒絶査定不服審判の請求
(1)拒絶査定の送達日から3月以内に、拒絶査定不服審判を請求することができます。拒絶査定の送達日(発送日)は、拒絶査定に記載されています。
(2)請求の理由を記載した審判請求書を提出する必要があります。請求の理由には、本願が特許されるべき理由を記載します。
(2)審査官の指摘が誤っており、拒絶理由が存在しない場合には、請求の理由において反論を行います。
(3)拒絶理由が妥当である場合には、拒絶理由を解消するために、審判請求書と同時に手続補正書を提出して補正を行う必要があります。このときの補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明に制限されるため、注意が必要です。
補正を行うことによって、審判の前に前置審査が行われます。前置審査では、拒絶査定を行った審査官が、補正によって拒絶理由が解消したか否かを判断します。前置審査において、審査官が、拒絶理由が解消したと判断すると、特許査定が通知されます。また、拒絶査定で指摘した拒絶理由は解消したが、新たな拒絶理由が発見された場合には拒絶理由通知書が発行されます。前置審査において、審査官が拒絶査定を維持すべきと判断した場合には、前置解除が通知され、審判官の合議体による審理が開始されます。
3-3.審判官の合議体による審理
審判官の合議体は、審判請求書及び手続補正書に基づいて審理を行い、拒絶査定を取り消す、又は拒絶査定を維持する審決を行います。また、審判官の合議体は、審理の過程で、新たな拒絶理由を発見した場合には、拒絶理由通知を発行し、出願人に反論及び補正の機会を与えます。
3-4.その他の注意点
(1)最初の拒絶査定の送達日から3月以内に、分割出願を行うことができます。審判請求時の補正は上記のように制限されているため、分割出願に対して補正を行うことで、補正の自由度を増やすことができます。
(2)前置審査において特許査定にならなかった場合に、上申書を提出して前置審査の判断に対して反論することができます。
(3)審判官の合議体と、電話、Web、対面により面接することができます。口頭で説明することによって、審判官の合議体の発明に対する理解が進むと共に、権利化に関して助言をもらえる場合があります。
(4)拒絶査定を維持する審決に対しては、審決取消訴訟を起こすことができます。
4.まとめ
拒絶理由通知及び拒絶査定を受けても、反論や補正を行う機会が与えられます。そのため、拒絶理由に応じた適切な対応を行うことが重要です。
弁理士 勝見 陽介