最近、ネットなどで「○○(社)が△△という商標を登録した」というようなニュースを見たことがある方もいるのではないでしょうか。
今回は、「商標とはなにか」という基本的なことから、商標登録のメリットやデメリットについて紹介していきます。
1.そもそも「商標」とはなにか?
1-1.ざっくり説明すると…
商標とは、自己の商品やサービスを他人の商品やサービスと識別できるようにする標識(マーク)のことをいいます。
例えば、「このマークが付いているから、これはA社の商品」「このマークが表示されているから、このサービスの提供元はB社」ということを認識できるものをいいます。
1-2.実は、こんなものまで登録できる商標
「標識(マーク)」というと、有名企業のロゴなどが思い浮かぶのではないでしょうか。
実は、商標法の改正により様々な態様で商標登録できるようになっています。
(1)文字
(登録第5216227号)
(2)図形
(登録第6120202号)
(3)立体的形状
(登録第4997908号)
(4)音
(登録第5813496号)
(5)色彩
(登録第5933289号)
(6)ホログラム
見る角度や温度の変化によって色や模様が変わるものについて登録することができます。
(登録第5804315号)
(7)動き
CMなど動画に適しています。
(登録第5900837号)
(8)位置
特定の位置のみに使用することを想定された商標です。
(登録第5960200号)
「商標=文字や図形」というイメージが強いかと思いますが、文字や図形以外でも、自己の商品やサービスの標識として繰り返し使用しているものがあれば商標登録できるかもしれません。
是非、該当するものがないかどうか探してみてください。
2.商標登録すると、このようないいことがある!
2-1.商標登録でできるようになる5つのこと
商標登録することのメリットはたくさんあります。主なものを以下に紹介していきます。
(1)その商標についての権利を独占できる
商標が登録されると商標権を取得することができます。
商標権を有していれば、登録された商品やサービスについてその商標を使用する権利を独占することができます。
ここで重要なのは、商標権は類似の範囲まで効力が及ぶという点です。
例えば、商品「菓子」について文字商標「オオシマファームの恵み」を登録した場合、商標権者は、商品「菓子」またはこれに類似する商品及びサービスについて、商標「オオシマファームの恵み」またはこれに類似する商標を独占して使用することができます。
詳しくは、以下の(2)でもご説明します。
(2)権利行使ができる
商標権者は、他人が登録商標を使用していた場合に権利行使を行うことができます。
権利行使として、当該他人への侵害行為の差し止め、損害賠償の請求などが可能です。
そして重要なのは、他人が登録商標に類似する商標を、登録された商品やサービスに類似する商品やサービスを使用していても権利行使が可能ということです。
権利行使が可能な範囲は以下の表に示すように、商標(マーク)が類似する場合、商品もしくはサービスが類似する場合、またはそのいずれもが類似する場合をいいます。
(3)ブランドイメージや企業イメージの向上などが期待できる
商標権の取得には特許庁の審査が必要です。
したがって、商標権を取得することにより、他人とは類似しない商標を安心して使用することが可能です。
また、商標権の取得により、他人による模倣を防止することができます。
商標は、自己の商品やサービスのコンセプトを消費者にわかりやすく伝えることや、印象付けることに役立ちます。
会社の場合、そのような安全な商標を長く使用することで、ブランドが確立し、ブランドイメージが向上させることができます。
取引先などに対しても、商標権を取得していることをアピールすることにより、知的財産や登録商標に関連する事業への熱意を示すことができると考えます。
(4)譲渡やライセンスの付与もできる
商標権は、民法の特別法である商標法において特別に規定されている知的財産権の一つです。
そのため、商標権を他人に譲渡することやライセンス契約(使用許諾)を締結することが可能です。
したがって、登録商標を自分で使用する必要がなくなった場合でも、利用価値があるといえます。
(5)半永久的に維持することができる
商標権は、10年に1度、更新手続を行うことで維持されます(ただし、5年ごとの更新も可能)。
そして、更新時には審査等は行われないため、更新手続を行うだけで、半永久的に商標権を維持することが可能となります。
商標は、長く使用すれば使用するほど信用が蓄積するものですので、ブランドを維持するという点で大きなメリットになります。
3.商標登録の注意点
3-1.商標登録のデメリットを挙げるとすれば・・・
商標登録には上記のような良い面がたくさんありますが、もちろん、面倒な点もあります。
以下に、商標登録を行う上で知っておいた方がよい点を挙げていきます。
(1)審査には時間がかかる
商標を出願すると、特許庁でその商標が登録できるか否かの審査が行われます。
この審査が行われるまでの期間は、指定した商品やサービスによって異なりますが、目安としては、3か月~10か月程度となっています(2023年6月末現在)。
また、審査において商標が登録できないと判断された場合、拒絶理由通知というものが発送されます。
拒絶理由通知に記載されている拒絶理由を解消すれば登録されますが、この対応が発生するとさらに登録までの期間が長くなります。
したがって、商標を出願してもすぐに登録されるわけではないのでご注意ください。
(2)費用がかかる
商標出願を行うためには、取得する商品やサービスの数に応じた金額を特許庁に支払う必要があります。
2023年現在、最も安い場合には12,000円から出願することができますが、出願や調査、審査時の対応、登録・更新手続などを弁理士等に依頼した場合、さらに費用がかかります。
出願人自身が出願することも可能ですが、調査や審査時の対応、更新期限の管理などは慣れていないと難しい場合がありますので、できれば弁理士に依頼するのがよいでしょう。
(3)不使用商標は取り消されるリスクがある
登録商標が登録後に継続して3年間使用されない場合、他人が当該登録商標を取り消すための審判を請求できるという制度があります。
この審判は、他人が当該登録商標(またはそれに類似する商標)を使用したい場合や、登録したい場合などに請求されます。
したがって、登録商標を数年間使う予定がないという場合には、ご注意ください。
(4)登録しても、普通名称化するリスクはなくならない
登録商標がその商品やサービスを示すものとしてあまりに有名になってしまった場合などに、もはや自己の商品やサービスを識別する機能がなくなり、誰の商標かわからなくなってしまう(=普通名称化してしまう)ことがあります。
普通名称化してしまった登録商標の例として、以下のようなものがあります。
・正露丸(大幸薬品の登録商標)
・エスカレータ(元、米オーチス社の登録商標)
・うどんすき(株式会社美々卯の登録商標)
登録商標の普通名称化を防ぐためには、自己(自社)の登録商標であることを積極的にアピールする必要があります。
具体的には、「『○○』は株式会社△△の登録商標です」や「『○○』(登録第××号)」の表記を行うことや、登録商標に「Ⓡマーク」を付けることをお勧めします。
このような登録商標の表示については、過去の記事でも説明していますので、ご覧ください。
(https://www.oshpat.jp/topics/934/)
3-2.商標登録ができない場合もある?
商標は、上述したように特許庁の審査を通過したもののみが登録されます。
では、どのような商標であれば審査を通過できるのでしょうか。
特許庁での商標の審査は、手続的・形式的要件を満たしているかどうかを判断する方式審査と、登録要件を満たしているかどうかを判断する実態審査に分けられます。
実態審査では、出願された商標が商標法上の不登録事由の有無について判断がなされます。不登録事由がある場合には、上述した「拒絶理由通知」が発送されます。
商標の主な拒絶理由としては、識別力がない(その商標が、すでに広く一般的に使われてしまっている)ことや、他人の登録商標に類似することが挙げられます。
逆に考えると、上記のような心配がない商標については、登録の可能性が高くなるかもしれません。
ただし、一見識別力がなさそうに見えるものでも、過去の審決例や判例などを参照すると登録できる可能性があるものもあります。
一方で、登録の可能性が高そうに見えても、他の不登録事由を有している場合もあります。
このようなことを防ぐために、弁理士に出願前調査を依頼することをお勧めします。
4.まとめ
ここまで読んでいただきありがとうございます。商標出願には様々なメリットがあることがお分かりいただけたでしょうか。まとめると、以下のようになります。
- 商標は、文字や図形だけではなく、様々な態様で登録できる
- 商標登録すると、権利の保護や行使以外にもできることがある
- 商標登録するには、費用や時間がかかることを覚悟する
- 出願前には弁理士に調査を依頼した方がよい
商標についてご不明な点や調査・出願についてのご依頼がありましたら、お気軽にご相談ください。