商標を出願した後に無事登録されるまでには、どれくらいの期間が必要でしょうか? 早期に登録を望む方にとっては、商標の審査結果が出るまでの期間は、意外に長く感じられるかもしれません。
通常、商標出願が行われると、審査の順番待ち(着手待ち)の状態になり、すぐに審査が開始されることはありません。一方、早期に登録を希望される方のために、早期審査の制度があります。この制度を利用すれば、通常の審査期間と比べて審査期間を短くすることが可能となります。
今回は、商標の審査を通常に比べて早く進めることができる早期審査について解説します。
1.早期審査とは?
早期審査は、商標出願において、一定の要件を満たす場合に、通常よりも早く審査を行う制度です。早期審査を申請することで、通常の審査期間よりも短い期間で商標登録が可能になります。
2.出願から審査結果が出るまでの期間は?
(1)通常の審査期間は3ヶ月~7ヶ月程度
特許庁では、商標出願後の審査着手時期の目安を公表し、適宜更新しています。
以下に示すように、これから出願(2023年6月~9月に出願)する案件については、審査に着手するまでに着手待ちの期間が生じます。
商標出願は、指定した商品・役務(サービス)の区分によって審査を担当する部門(審査室)に割り当てられ、それぞれ審査が行われます。
担当部門によって多少のばらつきがありますが、通常の審査が行われる場合、出願から最初の審査結果が出るまでには、3ヶ月~7ヶ月程度(国際商標登録出願を除く)の期間を要することになります。さらに、商標が登録されるまでには、登録料の納付手続などにより1か月程度の期間が加わります。
なお、特許庁によれば、各審査室が担当する区分は以下のようになります。なお、商標の区分についてより詳しく知りたい方は、弊所の「商標の『区分』とは?」のコラムもご参照ください。
(2)早期審査の審査期間は平均2.1ヶ月
特許庁によれば、早期審査を申請した出願の平均審査順番待ち期間は、早期審査の申請から平均2.1か月(2021年実績)です。上述の通常の審査期間と比べれば、かなりの時間短縮になります。
3.早期審査のメリット・デメリットは?
早期審査のメリット・デメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
(1)希望する商標を使用できるかどうかを早期に判断できる。
例えば、新しい商品を企画し、その商品にふさわしい商品名を考案した場合に、その商品名を商標として使用できるかどうか(他人の商標権を侵害する可能性がないか)について早期に判断可能となります。
これにより商品やそのパッケージの製造開始前に肯定的な審査結果が得られれば、その商品名を安心して使用できます。一方、審査の結果、登録が拒絶された場合(例えば、類似の他人の商標が発見された場合)でも、商品の発売前に商品名を変更するなどの対処ができれば、大きなトラブルを回避できるという利点があります。
(2)他人の模倣を早期に中止させることができる。
例えば、新商品の販売を開始した後に、その商品を知った他人が同じ商品名を使って模倣品を販売した場合でも、原則として商標登録されるまでは権利行使はできません。
早期審査によって、早期に権利を発生させることにより、そのような模倣品を販売する他人に対して差止等の権利行使を速やかに行うことが可能となります。
(3)指定する商品や役務に制約が生じる場合がある。
商標の場合には、早期審査を申請することのデメリットはほとんどありませんが、後にご説明するように、商標出願が早期審査の要件を満たすためには、指定する商品や役務に制約が生じる場合があります。
4.早期審査の流れは?
(1)出願人は、早期審査を希望する商標登録出願について早期審査の申請を行います。早期審査の申請には、「早期審査に関する事情説明書」の提出が必要です。
(2)特許庁は、早期審査の申請があった出願について早期審査の対象となるか否かを判定します。
(3-1)早期審査対象と判定された場合、出願人に対して早期に審査結果が通知されます。
(3-2)早期審査対象外と判定された場合、出願人に対して早期審査の選定結果(早期審査の対象とならない理由)が通知されます。ただし、一度早期審査の対象外となった場合でも、早期審査の要件を満たす状態になれば、出願人が再度申請を行うことで早期審査の対象となる可能性があります。
5.早期審査の対象となるには?
早期審査の対象となる出願は、以下の3通り(対象1~3)です。それらの何れかに該当ずれば、早期審査の申請が可能です。
<対象1>
出願人が出願商標を『使用』(要件1-1)していて、かつ、『緊急性を要する』(要件1-2)場合
○要件1-1
出願人が出願商標を指定商品または指定役務の一部に使用していれば問題ありません。また、実際に使用するだけでなく使用の準備を相当程度進めている場合でも、この要件を満たします。さらに、出願人だけでなくライセンシー(商標の使用権を与えられた者)の使用でも認められます。
「使用の準備を相当程度進めている」ことについては、資料などを提出して客観的に示す必要があります。特許庁は、そのような資料の具体例として以下を挙げています。
- 商標が付された商品・役務が掲載されたパンフレット・カタログ等の印刷についてその受発注を示す資料
- 商標が付された商品・役務が掲載された広告についてその受発注を示す資料
- 商標が付された役務の提供の用に供する物の受発注を示す資料
- 商標が付された商品・役務に関するプレス発表や新聞記事
ただし、社内において商品パッケージのデザイン案やホームページでの使用イメージ案を作成したことを示す資料等のみでは、「使用の準備を相当程度進めている」とは認められません。
○要件1-2
「緊急性を要する」場合として、以下のいずれかに該当することが求められます。
- 第三者が出願商標を無断で使用している。
- 出願商標の使用について第三者から警告を受けている。
- 出願商標について第三者から使用許諾を求められている。
- 出願商標について日本以外にも出願中である。
- 早期審査の申出に係る出願をマドプロ出願の基礎出願とする予定がある。
<対象2>
出願人が出願商標を『全ての指定商品・指定役務について使用』(要件2-1)している場合
○要件2-1
対象1の要件1-1と同様に、「使用の準備を相当程度進めている」場合でも、この要件を満たします。また、出願人自身の使用に限らず、ライセンシー(許諾を受けた者)の使用でも認められます。
なお、現時点で全ての指定商品・指定役務を使用していない場合でも、補正によって使用していない商品・役務を削除することにより、要件2-1を満たすことが可能です。
<対象3>
出願人が、出願商標を『使用』(要件3-1)していて、かつ、『類似商品・役務審査基準等に掲載されている商品・役務のみを指定』(要件3-2)している場合
○要件3-1
対象1の要件1-1と同様です。
○要件3-2
『類似商品・役務審査基準等』には、以下が含まれます。
なお、現時点で類似商品・役務審査基準等に掲載されている商品・役務のみを指定していない場合でも、補正によってそれらに掲載されていない商品を削除することにより、要件3-2を満たすことが可能です。
6.最後に
まとめると、次の通りです。
- 早期審査を申請することにより、早期審査の申請から2.1か月(2021年実績)程度に審査期間を短縮できます。
- 出願が早期審査の対象となるためには、使用状況や指定商品・指定役務について一定の要件を満たす必要があります。
早期審査として認めてもらうためには、客観性のある資料の準備や適切な区分を選んで出願する必要があります。ご自身で申請する場合、追加資料の提出を要求され、通常より期間がかかってしまうケースもあります。まずは商標登録のプロである私達にお気軽にご相談ください。 お問い合わせはこちら
弁理士 木村 政彦