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公開日:2023.07.03
更新日:2023.07.03

ビジネスモデル特許について

1.ビジネスモデル特許とは?

 ビジネスモデル特許は、正式な定義はありませんが、ビジネスを行う方法に関連するソフトウエア関連発明に与えられる特許と考えられています。すなわち、ビジネスモデル特許は、ソフトウエア関連発明の一種に与えられる特許であり、ビジネスを行う方法そのものには特許は与えられません

 特許は、発明に与えられられます。発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうと定義されています(特許法第2条第1項)。

 特許・実用新案審査基準には、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しないものとして以下のものが挙げられています。

  1. 自然法則以外の法則(例:経済法則)
  2. 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
  3. 数学上の公式
  4. 人間の精神活動
  5. 上記iからivまでのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)

 そのため、ビジネスを行う方法自体は、特許の保護対象となりません。

 しかし、ビジネスを行う方法のような発明特定事項に自然法則を利用していない部分があっても、全体としてみると、コンピュータソフトウエアを利用するものとして創作されたものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する可能性があります。ここで、コンピュータソフトウエアを利用するものは、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」場合は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当します。「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とは、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されることをいいます。

 

2.特許・実用新案審査ハンドブックに記載された事例

 特許・実用新案審査ハンドブックには、ビジネスを行う方法に関連するソフトウエア関連発明について、発明に該当する、或いは該当しない事例が掲載されています。これらの事例を参考にすることによって、発明として認められるビジネスモデルの範囲を理解することができます。以下に代表的な事例の要点を示します。

2-1.ポイントサービス方法[事例2-4]

【請求項1】

 テレホンショッピングで商品を購入した金額に応じてポイントを与えるサービス方法において、

 贈与するポイントの量と贈与先の名前が電話を介して通知されるステップ、

 贈与先の名前に基づいて顧客リスト記憶手段に記憶された贈与先の電話番号を取得するステップ、

 前記ポイントの量を、顧客リスト記憶手段に記憶された贈与先のポイントに加算するステップ、及び

 サービスポイントが贈与されたことを贈与先の電話番号を用いて電話にて贈与先に通知するステップとからなるサービス方法。

【請求項2】

 インターネット上の店で商品を購入した金額に応じてポイントを与えるサービス方法において、

 贈与するポイントの量と贈与先の名前がインターネットを介して通知されるステップ、

 贈与先の名前に基づいて顧客リスト記憶手段に記憶された贈与先の電子メールアドレスを取得するステップ、

 前記ポイントの量を、顧客リスト記憶手段に記憶された贈与先のポイントに加算するステップ、及び

 サービスポイントが贈与されたことを贈与先の電子メールアドレスを用いて電子メールにて贈与先に通知するステップとからなるサービス方法。

【請求項3】

 インターネット上の店で商品を購入した金額に応じてポイントを与えるサービス方法において、

 贈与するポイントの量と贈与先の名前がインターネットを介してサーバに入力されるステップ、

 サーバが、贈与先の名前に基づいて顧客リスト記憶手段に記憶された贈与先の電子メールアドレスを取得するステップ、

 サーバが、前記ポイントの量を、顧客リスト記憶手段に記憶された贈与先のポイントに加算するステップ、及び

 サーバが、サービスポイントが贈与されたことを贈与先の電子メールアドレスを用いて電子メールにて贈与先に通知するステップとからなるサービス方法。

 

(結論)

 請求項1に係る発明は、「発明」に該当しない。

 請求項2に係る発明は、「発明」に該当しない。

 請求項3に係る発明は、「発明」に該当する。

 

(説明)

 請求項1、2に係る発明は、「電話」、「顧客リスト記憶手段」、「インターネット」、「顧客リスト記憶手段」、「電子メール」といった技術的手段を使用するものであるが、全体としてみれば、これら手段を道具として用いた人為的な取決めそのものである。

 請求項3は、発明の目的(使用目的)に応じた特有の情報の演算又は加工がソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手順によって実現されているといえる。そのため、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されているといえるから、請求項3に係る発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作であり、「発明」に該当する。

 

2-2.駐車場管理方法[事例2-7]

【請求項1】

 車両が駐車場の入口を通過する際に、前記車両の車両識別データを取得するステップと、

 前記車両の駐車場への入庫に関する入庫データを、前記車両識別データに関連付けて記録するステップと、

 前記車両識別データに関連付けて記録された前記入庫データを、ユーザの携帯端末へ送信するステップと、

からなる駐車場管理方法。

【請求項2】

 車両検出器が、車両が駐車場の入口を通過する際に、前記車両から車両識別データを取得して、管理機器に送信するステップと、

 前記管理機器が、受信した車両識別データに基づいて、前記車両の駐車場への入庫に関する入庫データを生成し、前記入庫データを前記車両識別データに関連付けて入庫データ管理手段に記録するステップと、

 前記管理機器が前記車両識別データに関連付けて入庫データ管理手段に記録された入庫データを精算器に送信するステップと、

 前記精算器が前記車両識別データに関連付けて記録された前記入庫データをユーザの携帯端末へ送信するステップと、

からなる駐車場管理方法。

 

(結論)

 請求項1に係る発明は、「発明」に該当しない。

 請求項2に係る発明は、「発明」に該当する。

 

(説明)

 請求項1に係る発明は、「携帯端末」という技術的手段を使用するものであるが、携帯端末は、この目的を達成するための単なる道具として用いられているにすぎず、請求項1に係る発明は、全体としてみれば、駐車場管理に関する人為的な取決めそのものである。

 請求項2は、発明の目的(使用目的)に応じた特有の情報の演算又は加工がソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手順によって実現されているといえる。そのため、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されているといえるから、請求項2に係る発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作であり、「発明」に該当する。

 

2-3.ネットワーク配信記事保存方法[事例2-2]

【請求項1】

 受信手段が、通信ネットワークを介して配信される記事を受信するステップ、

 表示手段が、受信した記事を表示するステップ、

 ユーザが、該記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かを判断し、存在した場合に保存指令を記事保存実行手段に与えるステップ、

 前記記事保存実行手段が、保存指令が与えられた記事を記事記憶手段に記憶するステップから構成されるネットワーク配信記事保存方法。

【請求項2】

 受信手段が、通信ネットワークを介して配信される記事を受信するステップ、

 表示手段が、受信した記事を表示するステップ、

 記事保存判断手段が、該記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かを判断し、存在した場合に保存指令を記事保存実行手段に与えるステップ、

 前記記事保存実行手段が、保存指令が与えられた記事を記事記憶手段に記憶するステップから構成されるネットワーク配信記事保存方法。

 

(結論)

 請求項1に係る発明は、「発明」に該当しない。

 請求項2に係る発明は、「発明」に該当する。

 

(説明)

 請求項1には、受信手段、表示手段、記事保存実行手段等の手段が記載されているものの、これらの手段は、情報の受信処理、表示処理、記憶処理といった、コンピュータが備える一般的な機能を実現するものにすぎない。さらに、記事の文章中に所定のキーワードが存在するか否かの判断が、特定の手段ではなく、ユーザ(人間)の精神活動に基づいて行われている。よって、使用目的に応じた特有の情報の演算又は加工が、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段又は具体的手順によって実現されているとはいえないから、請求項1に係る発明は、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を構築するものではない。

 請求項2に係る発明は、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を構築するものである。したがって、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されているから、請求項2に係る発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作であり、「発明」に該当する。

 

3.各国の判断基準について

 上記の判断基準は、日本出願における判断基準です。ビジネスを行う方法に関連するソフトウエア関連発明が発明に該当するか否かについての判断基準は、各国で異なります。そのため、日本出願では発明と認められても、米国出願等では発明として認められない場合があります。出願の際には、各国の判断基準に即して、発明に該当するか否かを検討する必要があります。

 

4.まとめ

 ビジネスを行う方法自体は、特許の保護対象となりません。ビジネスを行う方法がソフトウエア関連発明として成立しているか否かを検討する必要があります。

*本コラムは、特許庁編「特許・実用新案審査審査基準」及び「特許・実用新案審査ハンドブック」の附属書B第1章コンピュータソフトウエア関連発明を引用しています。

弁理士 勝見 陽介

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