日本では、最先の商標登録出願人(最も早く出願手続を行った者)が優先的に保護される「先願主義」が採用されています。自分が使用したい商標が他人によって先に登録されてしまうと、定期的(通常は10年毎)に更新手続がなされている限り、その商標登録が消滅することはありません。
これに対し、登録異議申立制度は、商標が登録された後に一定期間に限り、その登録の取消しを求めることができる制度です。この制度は、あなたが使用を望む商標が他人によって登録されてしまった場合に利用できる重要な法的手段の1つです。
異議申立制度に関する法律や手続きについて詳しく知ることは、あなたのビジネスや知的財産の保護において非常に重要です。
1.異議の申立てをできる時期は?
(1)商標公報発行日から2か月以内であれば手続可能
出願された商標が審査を経て無事登録されると、特許庁は、それを広く一般に知らせるために、登録商標に関する情報を記載した商標公報(商標掲載公報)を発行します。
商標公報には、例えば、以下のように発行日の情報が記載されています。
異議の申立ての手続は、その商標公報の発行日の翌日から起算して2か月以内に行う必要があります。具体的な手続としては、所定の事項(申立ての理由など)を記載した異議申立書を特許庁に提出する必要があります。
(2)異議の申立て期間の延長は不可
異議申立書を提出可能な期間の延長は認められません。
ただし、期間内に異議申立書を提出すれば、異議申立書における「申立ての理由」を補充する等の補正については、異議の申立人が国内在住者の場合は30日以内、在外者の場合は90日(30日+職権による期間延長60日)以内に提出することができます。
2.異議の申立てをできる者は?
(1)誰でも異議の申立てが可能
商標法には、「何人も」登録異議の申立てができることが定められています(商標法第43条の2)。したがって、異議申立人は、対象の商標に関する利害関係人である必要はありません。
(2)無効審判では利害関係人である必要
商標の権利の有効性について特許庁が判断する制度として、登録異議申立制度の他にも無効審判制度が存在します。無効審判制度は、当事者間の紛争を解決するための制度であり、審判請求人は、利害関係人であることが必要です。
3.異議の申立ての理由は?
(1)登録されるべきでなかった商標が異議の申立ての対象
登録異議申立制度は、商標の登録処分の見直しを図ることにより登録の信頼を高めることを目的とするものです。そのため、異議の申立ての理由の多くは審査における拒絶理由と重複しています。
(2)具体的な理由
商標法第43条の2には、具体的な異議の申立ての理由が規定されています。より詳細には、『商標登録の要件(第3条)、商標登録を受けることができない商標(第4条第1項)、地域団体商標(第7条の2第1項)、先願(第8条第1項、第2項、第5項)、取消審決確定後の再登録禁止(第51条第2項(第52条の2第2項において準用する場合を含む)、第53条2項)又は外国人の権利の享有(第77条第3項において準用する特許法第25条)』の規定に違反することが異議の申立ての理由となります。
経験のない方にとっては、具体的な理由を確認することは簡単ではありませんが、異議申立制度の利用を検討すべき主要なケースとして、例えば以下のようなものが考えられます。
- 自らが使用したい文字や図形(商標として識別力のないもの)が他人に登録されてしまった場合
- 自らの登録商標と類似する商標が他人に登録されてしまった場合
- 自らが使用してきた商標(広く知られたもの)が他人に登録されてしまった場合
4.異議の申立ての審理及び決定について
(1)審判官の合議体による審理
異議の申立ての審理は、商標の審査の場合(原則1人の審査官による審査)とは異なり、3人又は5人の審判官の合議体によって行われます。基本的には、登録異議申立人が提出した異議の申立て理由およびその根拠となる証拠に基づいて審理が行われます。
審理の対象となる指定商品及び指定役務の範囲は、登録異議の申立てがされた指定商品及び指定役務に限られます。
(2)異議の決定
審理の結果、審判官は、対象の商標登録を取り消すべき(取消理由に該当する)と認めた場合には、その商標登録を取り消すべき旨の決定(取消決定)をします。
取消決定がなされる場合には、商標権者対して商標登録の取消しの理由が通知されます。また、商標権者に対しては、取消決定に対して意見書を提出する機会が与えられます。
一方、審査官は、対象の商標登録を取り消すべき理由が認められない場合には、その商標登録を維持すべき旨の決定(維持決定)をします。
(3)決定に対する不服の申し立て
異議申立人は、維持決定に対しては、不服を申し立てることはできません。一方、商標権者は、取消決定に不服がある場合には、東京高等裁判所に出訴することが可能です。
5.異議の申立ての情況について
特許庁が発行する「特許行政年次報告書2023年版」によれば、異議の申立てに関して以下のような実績が報告されています。
(1)申立件数は年間約570件(2022年)
商標の異議の申立ての件数は、年間565件(2022年)とされており、2020年以降は多少の増加傾向にあります。
異議の申立て件数の推移(権利単位)
※「特許行政年次報告書2023年版」からの抜粋
(2)審理期間は約9ヶ月(2022年)
商標の異議の申立ての審理期間は、8.9ヶ月(2022年)とされています。
異議の申立ての審理期間
※「特許行政年次報告書2023年版」からの抜粋
(3)登録の取消が認められるのは1割以下(2022年)
商標の異議の申立ての審理結果(決定に至ったもの)として、2022年では、取消決定(異議の申立てが成立)が37件、維持決定(異議の申立てが不成立)が365件、取下・放棄が54件となっています。
つまり、登録商標の取消が認められたケースはおおよそ1割以下であり、この結果は、審査を経て登録された商標を取り消すことは簡単でないことを示しています。
異議の申立ての審理結果
※「特許行政年次報告書2023年版」からの抜粋
6.最後に
異議申立制度についてまとめると、次の通りです。
○異議の申立ての手続は、商標公報発行日から2か月以内であれば手続可能
○異議の申立ての手続に利害関係は不要(誰でも異議の申立てが可能)
○異議の申立てを検討すべき主なケースは以下の通りです。
- あたなの使用したい文字や図形(商標として識別力のないもの)が他人に登録されてしまった場合
- あたなの登録商標と類似する商標が他人に登録されてしまった場合
- あたなが使用してきた商標(広く知られたもの)が他人に登録されてしまった場合
登録異議申立の手続を行うためには、適切な理由や客観性のある証拠の準備を行う必要があります。ご自身で手続する場合、異議申立の要件を満たさず、手続が却下されるケースもあります。まずは商標登録のプロである私達にお気軽にご相談ください。お問い合わせはこちら