特許要件を満たす発明を創作した場合、発明者は特許出願をして所定の手続きを執ることによって特許権を取得することができます。それでは、発明者はすべての発明について特許出願をして特許権を取得するべきでしょうか。
独占排他権である特許権を取得することには多くのメリットがある一方、デメリットも存在します。
このコラムでは、特許権を取得するメリット及びデメリットについて説明します。
1.特許権を取得するメリット
最初に、特許権を取得することのメリットについて説明します。
独占的な実施が可能
特許権を取得する最大のメリットは、やはり、特許発明を独占的に実施できることだと言えます。特許権を取得することにより、競合他社は特許発明を実施することができなくなりますので、事業を優位に展開することが可能になります。
市場における優位的立場の確保
特許権を取得して特許発明を独占的に実施できるため、他社製品との差別化を図り、価格競争に巻き込まれることを回避して市場における優位的立場を確保できます。したがって、製品価格を維持し易くなり、これにより多大な利益を確保することが可能になります。
発明品の実施による権利侵害の回避
物の製造販売やサービスの提供を業として行うと、他人の特許権を侵害することがあります。特許権を取得した発明は、特許庁で新規性及び進歩性があるものとして認められたものですので、他人の特許発明や出願中の発明を利用している場合を除き、原則的には自由に実施でき、自らが創作した発明を実施することによって他人の特許権を侵害することを回避できます。
なお、特許庁の審査においては、特許請求の範囲に記載された発明に近い先行技術が引用文献として挙げられますので、近しい特許出願や特許権を把握することができます。
ライセンス料の取得
特許権を取得しても、発明を事業として実施しなければ利益を得ることはできません。また、自らが事業として発明を実施したとしても、販売エリアが狭い場合や、製造能力が低く需要に応じた供給を行うことができない場合も、特許権の価値に見合った利益を確保することはできません。
そのような場合には、第三者に実施権※1を設定することでライセンス料を得ることができます。
※1 特許法には、特許権者が設定できる実施権として、定めた範囲で独占的に実施できる専用実施権と、定めた範囲で非独占的に実施できる通常実施権とが規定されています。
技術力のアピール及び社会的信用度の向上
特許権を取得することは、世の中になかった最先端の技術を開発していることの証になります。そのため、特許権を保有することは、自社の技術力のアピールになり、社会的信用度を向上させることができます。
また、自社製品に関する複数の特許権を取得していると、事業の安定的な継続が見込まれますので、融資を受けやすくなり、事業の拡大を図り易くなります。
権利化前の競業他者に対する牽制
特許出願を行うと、特許査定に基づく特許権の設定がされてなくても、出願から1年半後に特許出願公開公報によって出願内容が公開されます。出願中の発明は特許発明として登録される可能性があることから、競業他者は、特許請求の範囲に抵触するような製品の製造販売を避けるために、そのような製品の製造販売の中止又は延期、設計変更を余儀なくされます。
したがって、仮に発明が特許として登録されなくても、出願から拒絶査定が確定するまでの間は、特許出願が競業他者に対する牽制となり、実質的に出願人が発明を独占実施できる可能性があります。
2.特許権を取得するデメリット
次に、特許権を取得することのデメリットについて説明していきます。
発明を秘密にすることができない
特許権を取得するには、特許出願をして発明を公開する必要があります。特許権の設定が登録されると、特許権の内容を公表するために特許公報が発行されます。また、上記したように特許権が設定されていなくても、特許出願から1年半が経過すると、特許出願公開公報が発行され、出願内容が公開されます。そのため、発明を秘匿にしたまま特許権を取得することはできません。
ここで、真似できない程度に大雑把に発明を出願書類に記載して権利化すれば、特許権を取得できるうえ発明の詳細を秘密にできると考える人がいるかもしれません。しかし、特許法は、公開の代償として一定期間の独占排他権を認めるものであるため、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明を説明しないとならないことを規定しています(特許法第36条第4項第1号)。そのため、この要件を満たさない出願は拒絶されます。
物の製造方法のように、物を見ただけではその製造方法が分からないような発明や、公開したくないノウハウを発明の実施の際に必要とする発明は、公開して特許権を取得するよりも、秘匿にして実施した方が利益につながることがあります。
費用がかかる
特許を受けるためには、出願書類を用意し、出願料を支払って出願する必要があります。また、審査請求時には審査請求料を支払う必要があります。更に、出願に拒絶理由がある場合には、手続補正書や意見書を用意して特許庁に提出する必要があります。また、特許査定を受けた後には3年分の特許料を支払い、その後も年ごとに特許料(いわゆる年金)を支払う必要があります。
そのため、発明がライフサイクルの短い製品に関するものである場合や、特許発明を実施しても得られる利益が小さい場合には費用を回収できないことがあります。
研究開発分野を知られる
自らが日ごろから業として実施している物等に関する分野の発明をした場合は、公開によって発明内容が競業他者に知られても問題になることはあまりないと思います。一方、事業領域の拡大等のために、自らの事業に関連して他の技術分野について研究開発を行っている場合、特許出願をして発明内容が公開されることにより、研究開発分野を競業他者に知られ、事業展開のヒントを与えることになる可能性があります。
ただし、公開されるのは出願から1年半後ですので、それまでに研究開発を進めてアドバンテージを得る時間的余裕はあります。
3.まとめ
ここまで説明してきたように、特許権を取得することには多くのメリットがありますが、少なからずデメリットもあります。また、特許権を取得するためには創作したアイデアが特許法に定められた様々な特許要件を満たす必要があります。(詳しくは、弊所のコラム「特許が認められるためには」を参照)
そのため、特許され得る発明を完成させた場合には、その発明について特許出願をした場合のメリットとデメリットとを比較して、出願をするべきか否か検討することをお勧めします。出願について疑問や質問がある場合には、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
弁理士 立川 幸男