自分のブランド名やブランドロゴを商標登録したいと思ったことはありますでしょうか。最近では、個人製作のハンドメイド作品などについてブランドを立ち上げている方も多く、その中には、自身のブランドを自分で商標登録したいと考えている方もいらっしゃるかと思います。では、商標登録を自分ですることはできるのでしょうか。
結論から申し上げますと、商標登録は自分ですることも可能です。ここでは、商標登録をしたい人がどのような手続きを行えばよいのかということや、自分で手続きするときの注意点やリスクなどについて解説していきます。
1.商標を出願するときの手順
商標を登録するためには、特許庁へ商標出願を行う必要があります。商標出願は通常、知的財産の専門家である弁理士に依頼することが一般的です。一方、「費用を安く済ませるために、商標出願を自分でやってみたい」という人もいるかと思います。以下は、そのような方向けの内容になります。
1-1.使用したい商品やサービスの選定
商標は、<登録したい商標(文字列やマーク)>と、その商標を使用する<商品・サービス>とをセットで登録する必要があります。ある商標を登録したからといって、どのような商品やサービスに使用する場合についてもその商標についての権利を独占できるというわけではありません。
したがって、登録したい商標が決まったら、その商標をどのような商品やサービスに使用したいのか選定する必要があります。商品とサービス(役務)については、特許庁が分類する第1類~第45類の区分から選定します。第1類~第34類までがモノとしての商品区分、第35類~45類までが形のないサービスの区分になります。例えば、使用する商品が文房具であれば、第16類という区分になります。登録対象の区分数が増えるごとに出願料金や登録料金が増えていくという仕組みになっています。
1-2.他人の登録済み商標がないかどうかの調査
商品やサービスが決まったら、次に、自分の登録したい商標が他人に登録されていないかどうかの調査を行います。調査は無料の知的財産情報データベースである「J-Plat Pat」(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)の「商標」タブの→「商標検索」画面で行います。
検索したい商標、区分等を入れて検索すると、他人の同一の商標や似たような商標がある場合は、それらが抽出されます。
商標の保護範囲は、同一の範囲みならず、類似の範囲まで及びます。したがって、どのくらい似ているかにもよりますが、同一の商標でなくても似た商標がある場合、登録は難しいことがあります。
商品やサービス(役務)が類似するかどうかの一つの基準として、特許庁では「類似群コード」を採用しています。類似群コードは、各商品やサービス(役務)について付与された数字とアルファベットの組み合わせであり、同一の類似群コードが付与されている商品やサービス(役務)は、原則として同一または類似すると判断されます。類似群コードは、上記「1-1.使用したい商品やサービスの選定」でご紹介した特許庁が公表する分類表に掲載されています。
<例>
第29類「乳製品」(類似群コード:31D01)と
第30類「アイスクリームのもと」(類似群コード:31D01)とは原則として互いに類似する商品といえます。
1-3.出願手続き
上記の方法で調査を行った後、「登録できそうだな」と判断したら、出願手続きを行います。
出願には書類(紙ベース)で行う方法と、インターネット経由で行う方法があります。大量に出願する場合や今後もコンスタントに出願する場合はインターネット経由の方が便利ですが、インターネット経由で行う場合には専用のインターネット出願ソフトを使用する必要があり、初回のセットアップ等に手間がかかるため、あまり出願頻度の多くない個人の方は、紙書類で出願するのをお勧めします。
紙の願書の書式は、以下よりダウンロードすることが可能です。
知的財産相談・支援ポータルサイト
出願費用は商品・役務の区分数に応じた必要な額の特許印紙を願書に貼り付けて支払います。貼り付ける印紙として収入印紙は認められていませんので、ご注意ください。
出願後しばらくすると、特許庁において審査が開始され、登録可能かどうかの通知が発送されます。
2.自分で出願することのリスクとは?
2-1.有効な権利にならないリスク
自分で出願した場合に考えられる最も取り返しのつかないリスクとしては、せっかく登録できた商標なのに、意図していたものとは違う権利になってしまったというリスクが想定されます。
これは、「1-1.使用したい商品やサービスの選定」で選定した商品やサービスが、そもそも商標の使用する範囲から外れてしまっているというケースです。なんとなくそれらしいものを選んだが実際は区分が違ったというようなことや、必要な区分が選定した区分から漏れていたというようなことが考えらえます。この場合、必要な商品やサービスについて商標は保護されませんので、登録自体が無駄になってしまう恐れもあります。
区分のミスに気付いた場合には再度新規に出願すればよいのですが、最初の出願から新規の出願までの間に他人が似たような商標を出してしまい、新規の出願が登録を受けられないリスクがあります。また、商標の登録には出願からおよそ1年程度の期間を要します。そのため、商標の保護が遅れてしまうリスクもありますので、区分の選定にはミスがないよう、十分に注意する必要があります。
2-2.調査結果に対して経験的な予測ができないリスク
これは致し方ないのですが、「1-2.他人の登録済み商標がないかどうかの調査」でご説明した調査の結果について、商標出願の調査に慣れていない方にとっては、経験的に「この結果ならば登録できる」、「この結果ならば登録は難しい」といった判断をすることが難しいと考えます。商標調査や商標登録に慣れている人、または専門家であれば、過去の類似するケース(審決例、判例等)や審査基準などからある程度登録の可否を予測することができます。しかしながら、特に初めて商標出願を行う人の場合、この判断は非常に難しいと考えます。
また、調査結果に対する判断が難しいということ以前に、調査が正しく行えていない場合は、調査自体が意味のないものになってしまいます。そのほか、登録したい商標自体がそもそも商標法上の不登録事由を有している恐れもあり、商標法に詳しくないために、登録できない商標について出願してしまうというリスクもあります。
2-3.出願手続きに手間取ってしまうリスク
他にも、出願書類の書誌的な事項の記載不備などの理由で商標の登録可否に関する実体的な審査の前に特許庁から補正指令等を受けるというケースもあります。特許庁に提出する願書については、用紙や記載する商標のサイズ等についても細かく定められているため、注意が必要となります。
3.商標登録をお考えの方へ
商標を自分で出願する場合の手順とリスクについてご説明しましたが、いかがでしたでしょうか。
商標を自分で出願する場合には、特許庁に支払う費用だけで済むため、弁理士に依頼する場合に比べると、確実にコストを抑えることができます。その反面、出願する商品やサービスの選定、調査、出願書類の作成の作業は慣れていないとかなり大変ですし、それぞれの手順が正しく行えているかの判断は難しいと考えます。また、苦労して出願・登録した商標が実は意図していた権利とは異なっていたというリスクや、商標法上登録できない商標について出願してしまったというようなリスクが生じることも想定されます。
したがって、大切な商標の保護を安全に行うためには、できるだけ専門家である弁理士に相談することをお勧めいたします。
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弁理士 由利 尚美