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公開日:2024.08.12
更新日:2024.08.12

マドプロと個別出願、外国で商標を登録するときにどちらを選ぶべき?

外国で商標を取得するための方法として、①マドプロを利用した出願と、②各国への個別出願という代表的な2つの方法があります。この2つの方法を比較し、どのように使い分けるべきか解説していきます。

1.2つの方法の比較

マドプロを利用した出願と各国への個別出願とは、どちらが絶対的に有利というものではありません。以下にこれら2つの方法の概要を説明し、比較していきます。

1-1.<概要>マドプロとは

マドプロとは、マドリット協定議定(マドリットプロトコル)の略称であり、商標について世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局の管理の下で国際登録を受けることにより、権利を取得したい国(指定国)においてその保護を確保できることを内容とする条約です。

出願人は、本国(日本の出願人なら日本)に登録のある商標または出願中の商標を基礎として、本国官庁(日本国特許庁)を通じてマドプロ加盟国に対してまとめて商標出願を行うことが可能です。

アメリカ、中国、ドイツに出願する場合の流れについて、以下の図を参照してご説明します。

マドプロを利用してこれらの国についての国際登録出願を日本国特許庁に対して行うと、日本国特許庁において記載不備や料金についての方式審査が行われます。方式審査を経た後、国際事務局において国際登録が行われ、出願を希望する各指定国(アメリカ・中国・ドイツ)への通報がなされます。

各指定国はこの通報を受け、国際事務局の通報から1年(または18か月)以内に各指定国において登録可能かどうかの審査を行います。登録できない理由がある場合には、出願人に対して暫定拒絶通報(日本の審査でいう拒絶理由通知)が送付されます。

その国で商標が登録されるためには、拒絶通報に記載された拒絶理由を解消する必要があります。拒絶通報に対する応答は、現地代理人を選任して行うことが一般的です。登録できない理由がない場合は、現地代理人を選任することなく商標が登録されます。

1-2.<概要>各国への個別出願とは

各国へ個別出願する方法は、以下の図に示すように、出願したい各国の現地代理人を通じて、国ごとに出願するという流れになります。マドプロとは異なり、本国での基礎登録や基礎出願は不要です。

現地代理人を通じて出願が行われ、各国において順次審査が行われます。各国において商標を登録できない理由がある場合には、出願人に対して拒絶理由通知が送付されます。通常、出願を依頼した現地代理人を通じて拒絶理由通知に応答し、拒絶理由が解消されれば登録となります。

 

2.それぞれの方法のメリットとデメリットとは?

2-1.マドプロについて

<メリット>

  • メリット①出願手続きが一度で済むため簡単

    権利を取得したい国(指定国)が多い場合でも、現地語の書類を個別に準備する必要はなく、英語の出願書類で一度に出願することができます。

  • メリット②費用が安く済む場合がある

    出願手続きは日本国特許庁に対して一度にまとめて行うことができるため、指定国が多い場合には出願費用が抑えられることでトータルコストの削減になることがあります。また、仮に指定国で拒絶通報が発せられなかった場合には現地代理人を介することなく登録することができるため、現地代理人費用を節約できることがあります。

  • メリット③国によっては審査期間が短縮できることがある

    マドプロでは、各指定国が拒絶通報を行える期間が決まっています(国際事務局による指定の通報から1年または18か月)ので、もともと審査期間が長い国の場合は、審査期間を短縮できることがあります。
    最近では審査の短縮化が進んでいる国もあり、例えばアメリカや中国では出願日から3~4か月で最初の通知が出ることがあります。そのような国へマドプロを利用して出願すると、本国での基礎登録・基礎出願の確認作業や国際事務局での処理や通報に時間を要し、結果として直接出願よりも権利の取得が遅くなることがあります。したがって、指定国ごとの審査期間をリサーチしておくのがお勧めです。

<デメリット>

  • デメリット①セントラルアタックがある

    セントラルアタックとは、国際登録の日から5年以内に、基礎出願または基礎登録が拒絶・無効・取り消しされた場合に他の国際登録も取り消されてしまう制度です。マドプロによる国際登録は国際登録の日から5年間は本国での基礎登録や基礎出願に従属するためです。これはマドプロにおける大きなデメリット(リスク)といえます。

  • デメリット②出願国が少ない場合、費用が高額になることがある

    日本国特許庁を介してマドプロを利用した出願を行う場合には、日本の代理人手数料以外に以下の費用がかかります(2024年8月現在)。

  • 2024年8月9日現在のレートですとおおよそ1CHF(スイスフラン)=170円なので、仮に白黒の商標(1区分)をアメリカ(個別手数料:460CHF)にマドプロを利用して出願する場合、庁関係の費用だけで約20万円かかります。
    日本に基礎登録や基礎出願がない場合には同一の商標を日本に出願しておく必要があるため、これに加えて日本の特許庁費用1万2000円がかかります。実際には通常、これに日本の代理人手数料が加わるため、マドプロを利用した出願費用は安価とはいえません。
    なお、この費用とアメリカ1国に個別に出願した場合とを比較すると、多くの場合、アメリカに個別出願した方が安く済むことが予想されます。

  • デメリット③マドプロ非加盟国には出願できない

    権利を取得した国にマドプロ非加盟国が含まれている場合、非加盟国については個別に出願する必要があります。2024年8月現在のマドプロ加盟国は115か国です。アジアの主な非加盟国としては、台湾、香港、ミャンマーなどがあります。
    最新のマドプロ加盟国については、以下の特許庁HPをご参照下さい。
    【商標の国際出願】締約国一覧

  • デメリット④出願国(指定国)によって出願の内容を変更することができない

    マドプロを利用する場合、基礎登録や基礎出願と同一の商標、基礎登録や基礎出願と同一(またはその範囲内)の指定商品や指定役務で出願する必要があります。したがって、国ごとに商標を変更したり、基礎登録や基礎出願の範囲を超えて指定商品や指定役務を変更したりすることができません。
    国によっては指定商品や指定役務の区分が日本と異なることもありますので注意が必要です。

2-2.各国への個別出願について

<メリット>

  • メリット①出願国が少ない場合、マドプロを利用した出願よりも費用が安く済むことがある

    上述したように、マドプロでは出願時の費用が安くありません。したがって、出願国が少ない(~3カ国程度)場合には、個別出願の方が安くなることがあります。

  • メリット②国ごとに商標や指定商品/指定役務を変更して出願できる

    例えば、すでに日本で使用している商標に日本語の文字が含まれている場合、日本語の文字をそのまま出願すると、外国における審査では多くの場合、日本語部分=図形とみなされます。マドプロを利用した出願では商標を基礎登録や基礎出願から変更することができませんので、商標に含まれる日本語の文字部分を現地語等に変更したい場合などには個別出願が有利といえます。また、その国の審査やその国での知財戦略に合わせて指定商品や指定役務を大きく変更することも可能です。

  • メリット③出願時に、現地代理人によるアドバイスが期待できる

    マドプロでは出願時に現地代理人を介さないため、その国の審査に合った指定商品や指定役務の選定が難しい面があります。特に、国によっては指定商品や指定役務の表記について厳しく審査されることがあります。権利を取得したい国にそのような国が含まれる場合、個別出願を行うことにより、当該国の現地代理人によるアドバイスを受けて出願できるという利点があります。

<デメリット>

  • デメリット①出願国が多い場合、費用が高額になることがある

    出願国が多い場合には、各国の現地代理人の費用及び庁費用がそれぞれかかるため、高額になることがあります。

  • デメリット②商標の管理は国ごとに行う必要がある

    マドプロによる出願の場合、商標の更新等の一定の手続きは国際事務局に対して行うことができますが、各国へ個別出願した場合には更新手続き等は各国へ個別に行うことが必要となります。

 

3.どのように使い分けるべき?

では、マドプロと各国への個別出願とをどのように使い分けるべきでしょうか?

3-1.考慮すべき3つの観点

  1. 出願国数

    上述したように、マドプロでは出願時の費用が比較的高額であり、また、各指定国の審査において拒絶通報が発せられた場合には個別出願と同様に現地代理人手数料がかかるため、出願国が少ない(~3か国)の場合には、各国への個別出願も検討した方が良いと考えます。

  2. 商標は同一で良いか、変更したいか

    各指定国で登録されるのが基礎登録や基礎出願と同一の商標でもよいという場合はマドプロでも問題ありませんが、国ごとに商標を変更したいというような場合は、各国へ個別出願することが必要となります。

  3. 指定商品や指定役務の表記の取り扱いが他国とは異なる国が含まれているか

    例えば、中国の指定商品や指定役務の類似群(グループ分け)は日本とは多少異なっており、区分そのものが異なることもあるため、出願時には注意が必要です。また、アメリカにおいては、(担当審査官によりますが、)指定商品や指定役務の表記についてかなり厳しく審査されることがあります。過去にアメリカの審査で採用されたことがない指定商品や指定役務については拒絶される可能性が高いため、この点についても注意が必要です。したがって、権利を取得したい国に中国やアメリカが含まれている場合には、指定商品や指定役務の選定に自由が利く個別出願の方がスムーズに権利取得できる場合があります。

3-2.まとめ

ここまでの話を簡単にまとめると、以下のようになります。

  • 商標を外国に出願する方法は、マドプロを利用した出願と各国への個別出願がある
  • 出願国が多い場合は、マドプロを利用すれば一度で各国に出願することができ、出願費用も抑えられることがある
  • 出願国が少ない場合にはマドプロは割高になる傾向がある
  • 各国への個別出願は出願内容の自由が利く

どちらの方法が絶対に良いということはなく、権利を取得したい国の審査期間や審査の慣習によってそれぞれの利点や不利な点が変わってきます。商標の外国への出願をご検討されている場合には、お気軽にご相談下さい。

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弁理士 由利 尚美

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