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公開日:2024.09.24
更新日:2024.09.24

英語や漢字の商標とその読み方の商標を両方保護したいときに、1件でまとめて出願する方法

ある英語表記や漢字表記とその読みを表す表記(カタカナやひがらな)の商標を両方出願したいけれども、予算の都合などで出願を1件に抑えたいということもあるかと思います。以下では、そのような2つの表記を含む商標を1件の商標出願で保護する方法を解説していきます。

なお、本コラムは「英語表記と日本語表記、どっちも商標登録が必要?」と関連しています。英語表記と日本語表記の商標について迷われている方は、そちらもご参照頂くことで、より理解が深まると思います。

1.2つの表記を含む商標について

商標について、英語(漢字)表記とその読み方(カタカナやひらがな)、を考えたとき、それらの英語(漢字)表記やその読み方が特殊な場合には、英語(漢字)と読み方の両方の商標を出願するのがベターです。ある英語表記や漢字表記から1つの読み方しか生じないというケースについては問題ないのですが、いくつかの読み方が生じるというようなケースでは、英語(漢字)表記のみの登録だけでは商標の保護が十分でない場合があるからです。そのようなときに利用される方法として、日本においては「二段書き(二段併記)商標」というものが慣習的に認められています。

 

1-1.二段書き商標とは

前提として、英語表記「APPIAR」を「アピアー」と読ませたい場合について考えてみましょう。「APPIAR」は辞書等に掲載のない造語であるため、このアルファベット文字列を保護したい場合には英語表記と日本語表記の両方の商標を出願しておくことが安全です。その理由として、英語表記「APPIAR」は「アピアー」の他、「アピアール」等とも読めてしまうことから、英語表記「APPIAR」と日本語表記「アピアー」が互いに類似すると判断するとは限らないため、英語表記「APPIAR」で登録されても、日本語表記「アピアー」を使用する他人に対しては英語表記「APPIAR」の商標権が及ばない(=侵害であるとして権利行使ができない)恐れがあるためです。

続いて、漢字表記「鍵板」を「きーぼーど」と読ませたい場合はどうでしょうか。「鍵板」についても辞書等に掲載がなく、「けんばん」「かぎいた」等、複数の読み方が想起されます。したがって、漢字表記「鍵板」のみの登録では、「鍵板」の商標権は日本語表記の「きーぼーど」までは及ばない可能性があり、他人が使用する「きーぼーど」に対して権利行使できない可能性が高くなります。したがって、このケースにおいても、「鍵板」と「きーぼーど」との商標権を併せて取得しておいた方が良いと考えます。

このようなケースで有効なのが、以下のように、英語表記や漢字表記と、その読み方(カタカナやひらがな)とを併記した、いわゆる二段書き商標(二段併記商標)です。

<二段書き商標の例>
   アピアー         きーぼーど
  APPIAR         鍵 板

上記の例のように、日本では、英語表記や漢字表記と、その読み方とを二段に併記して出願することが慣習的に認められています。

 

1-2.二段書き商標で出願した場合のリスク

とても便利でお得な出願方法のように思える二段書き商標ですが、この出願方法にはリスクが伴います。以下に、二段書きで出願することを考えている場合に注意すべき項目を挙げていきます。

使用するときには原則として二段書きの形で使用しなければならない

二段書き商標によって登録された権利はあくまで二段書き商標に付与された権利であって、2つの表記を個別に出願した時とは異なり、2つの表記に対して個別に権利が付与されているわけではありません。したがって、商標を使用するときには原則として登録された二段書き商標の形で使用することが必要となります。

・登録商標を正しく使用していない場合には商標を取り消されることがある

商標法では、登録後3年以上継続して登録商標を使用していない場合には、第三者が不使用取消審判を請求することによってその登録商標を取り消すことができるという制度を設けています。この制度があるため、商標権者は登録商標を継続して使用する義務を負います。
したがって、二段書き商標で登録された場合には、きちんと二段書き商標の形で使用していなければ取り消される恐れがあるというリスクを負っています。

登録商標と社会通念上同一の商標であれば、登録商標と同一の商標でなくても登録商標の使用として認められることもある

しかしながら、これは二段書き商標以外の商標にもいえることですが、登録商標と完全に同一の商標を使用し続けることは難しく、長い年月を経て使用しているうちに使用商標が登録商標とは多少異なってしまったというケースは多くあります。商標法では、そのような事情を考慮して「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」を使用していれば、それは登録商標の使用であると認めています。登録商標と社会通念上同一の商標とは、登録商標の書体を変更した商標や標準文字をロゴ化した商標等を指します。

では、二段書き商標を構成する表記のうち、一方の表記の使用は「登録商標と社会通念上同一の商標」の使用になるのでしょうか?
これは商標にもよりますが、上記の「APPIAR」の例では、仮にカタカナ表記の「アピアー」のみを使用していた場合、恐らく登録商標の使用には当たらないと判断されると考えます。その理由としては、「アピアー」というと、通常、「APPEAR」という英語(既成語)を想起するためです(参考審決:取消2005-30543)。

同様に、「鍵板」の例では、カタカナ表記の「キーボード」のみを使用していた場合、登録商標の使用であると認める可能性はあまり高くないものと考えます。
一方、いずれの例においても、「APPIAR」、「鍵板」の方のみ使用している場合には、登録商標の使用であると認められる可能性もあると考えます。ただし、審査官によっては判断が異なることもありますので、いずれも絶対に安全であるとは言い切れません。

このように、二段書き商標は英語表記や漢字表記とその読み(カタカナやひらがな)とを1つの出願で出願できるため一見お得な方法のように思えますが、商標を二段書きの形で使用し続けることはハードルが高いとも考えられ、商標によっては使用の態様により不使用取消審判で取り消されるリスクがありますので、必ずしもお勧めできるものではありません。

外国に出願することを検討している場合、二段書き商標は✕

二段書き商標は、日本において慣習的に認められているものであり、外国で必ずしも認められるとは限りません。また、日本語表記は外国において一般的な表記ではないため、商標の日本語表記の部分について、外国では「図形である」と判断されることが多々あります。
そのため、日本に商標を出願した後、日本に出願した商標を基にして外国に出願することを考えている場合には、通常、日本語表記を含めない英語表記(中国等なら漢字表記も)の商標を単独で出願することになります。したがって、外国出願をする予定がある場合にも、二段書き商標はお勧めできません。

 

2.まとめ

今回は英語表記や漢字表記と、その読みを表す表記(カタカナやひらがな)との2つの表記を含めた二段書き商標について、その概要やリスクをお伝えしました。二段書き商標を出願するときに確認すべきポイントを以下にまとめます。

✔二段書きにすることが必要な商標か
そもそも、英語表記や漢字表記から生じる読み方が1つに定まるようなものであれば、英語表記や漢字表記、あるいはその読み方を表す表記のみの出願で良い場合があります。

✔二段書き商標で登録したら、原則として二段書き商標の形で使用する
商標は、登録商標を正しく一定期間使用しなければ、不使用取消審判により取り消されるリスクが生じます。使用している商標が登録商標と社会通念上同一であると認められれば、不使用取消審判による取消を回避することができます。

✔外国出願を考えている場合には、二段書き商標は✕
二段書き商標は日本で慣習的に認められているものですので、二段書きの形で出願したとしても、外国においても日本と同様の権利が得られるとは限りません。

2つの表記を出願する必要があるのかといった疑問や、自身の使用方法が登録商標の使用になるのか迷われる場合には、お気軽にご相談下さい。相談はこちら

弁理士 由利 尚美

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