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公開日:2023.03.20
更新日:2023.04.19

欧州単一特許制度について

 2023217日にドイツが批准したことにより、UPC協定(Agreement on a Unified Patent Court)が202361日に発効され、欧州単一特許制度が施行される予定です。

1.欧州単一特許制度の概要

 欧州単一特許制度は、UPC協定の参加国に単一の特許を付与する「単一効特許(Unitary Patent, UP)」に関する制度、及び、特許権の無効や侵害に関する裁判手続きを統一する「統一特許裁判所(Unitary Patent Court, UPC)」に関する制度の2つの制度を含みます。

2.単一効特許(Unitary Patent, UP)

 単一効特許は、単一特許とも呼ばれ、欧州特許条約(EPC)加盟国のそれぞれの国で有効とされる従来の特許権と異なり、UPC協定を批准した、EU加盟国の多数の国に対して単一効を有する特許権です。

 202361日以降、欧州特許庁(EPO)により欧州出願に基づいて特許が付与(登録)されると、特許権者は特許に対して、以下の2つの手続きを執ることが可能になります。

・単一効の申請(単一効特許を取得するための申請)
・従来型の指定国有効化手続き(選択した国毎に特許権を取得するための手続き)

 単一効の申請には登録日から1ヶ月、指定国有効化手続きには登録日から3ヶ月の期間が与えられます。

3.単一効特許がカバーする国

 単一効特許はUPC協定を批准している国に有効です。UPC協定を批准している国は現時点では以下の17か国です。

 オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロべニア、スウェーデン

 現時点では、クロアチア、ポーランド、スペイン等はカバーされません。これらの国については、単一効の申請と並行して従来型の指定国有効化手続き(バリデーション)を行うことで特許権を取得することができます。

 また、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス、イギリスはEU加盟国ではないため、単一効特許ではカバーされません。

 今後、キプロス、チェコ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、ルーマニア、スロバキアなどがUPC協定を批准することが予想されており、カバーされる国は増える予定です。ただし、権利の登録後に加盟国が増えても、単一効特許の効力がその国まで拡大するものではありません。

4.単一効特許のメリット・デメリット

 単一効特許には以下のようなメリット・デメリットがあります。

メリット

  • 各国において個別の手続きを必要としないため、欧州の複数国で保護を求める場合に、手続きが簡素化され、時間が削減できます。
  • 維持年金もEPOに対してのみ行えばよく、管理負担が軽減されます。

デメリット

  • 保護を求める国が少ない場合、従来型欧州特許で要する費用に比べて割高になる。(保護を求める国が概ね4か国以内の場合、単一効特許の費用は割高になります。)
  • 追加の英語又はEU公式語の全文の翻訳文が必要になります。
  • 訴訟で無効判決を受けると、UPC協定に参加している全ての国で統一的に特許が無効になります(セントラルアタック)。
  • 単一の特許権ですので、後に特定の国での保護が不要になっても、特定の国の保護のみを放棄することはできません(維持年金の一部を削減することはできません)。

5.統一特許裁判所(Unitary Patent Court, UPC)

 UPC協定が発効されると、統一特許裁判所は、すべての加盟国に管轄権を持ち、全ての従来型欧州特許権及び欧州単一効特許権について、その有効性及び侵害事件等の裁判を取り扱うことができます。欧州単一効特許については、統一特許裁判所が専属管轄を有します。

 統一特許裁判所は、第一審を取り扱う中央部(パリ、ミュンヘン)、地域部、地方部、第二審を取り扱う控訴院(ルクセンブルグ)、裁判外紛争解決手続(ADR)を扱うUPC調停・仲裁センター(リスボン、リュブリャナ)等により構成されます。

 UPC協定が発効される202361日から7年(最長で14年)後までの移行期間においては、オプトアウトをしていない従来型欧州特許に関して訴訟を提起する原告は、統一特許裁判所に提起するか、権限のある国内裁判所に提起するかを選択することができます。

※「7.オプトアウト」を参照

6.統一特許裁判所のメリット・デメリット

 統一特許裁判所には以下のようなメリット・デメリットがあります。

メリット 

  • 複数国で行われた侵害行為に対して訴訟を提起する場合、国内裁判所で個々に訴訟を行う場合と比べ、費用を削減できる可能性があります。また、単一の判決により、複数国にわたる行為に対する差し止め命令や、高額な損害賠償を得られる可能性があります。
  • 迅速な手続きが期待できます。(UPC手続規則では、通常、第一審の口頭弁論まで1年以内とされています。)

デメリット

  • 制度開始直後は、統一特許裁判所での判例がなく、判断基準等が不確実です。
  • 不利な判決が出た場合に、別の国の裁判所で同一審について争うことができません。

7.オプトアウト

 統一特許裁判所制度の施行開始にあたり、UPC協定の発効日から7年(最長で14年)間は移行期間とされています。移行期間中、特許権者は従来型欧州特許権の裁判管轄から統一特許裁判所を除外するためにオプトアウトを申請することができます。なお、オプトアウトは全ての国について(有効化した特許の束について)行う必要があります。

 上述の通り、欧州単一特許制度が施行されると、第三者が統一特許裁判所に訴訟を提起できるようになります。そのため、既存の特許権について権利者が確実にオプトアウトできるように、制度の施行開始前にオプトアウトを申請することができるサンライズ期間が設けられています。

 サンライズ期間は、施行開始の3ヶ月前から施行開始の前日まで(202331日から531日まで)となります。

 一度オプトアウトを申請したとしても、その後、裁判管轄に統一特許裁判所を含めるオプトインの申請をすることができます。ただし、一度オプトインをした場合は、再びオプトアウトをすることはできません。

 オプトアウトについてEPOの庁費用はかかりません。一方、オプトアウトは現地代理人に依頼する必要があり、代理人や特許権の数にもよりますが、€60300程度の費用がかかります。

8.オプトアウトすべきか否か

 統一特許裁判所にはメリットもデメリットもあるため、一概にどうすべきかとは言えません。以下に、オプトアウトすべきか否かについて判断をする際の要素の例を示します。

オプトアウトが必要と判断する要素

  • 有効化した国数が多い
  • 特許の有効性に自信がない
  • 重要な権利である(実施特許である/ライセンスを設定している)
  • 権利行使を行う場合の国数は少ない

オプトアウト不要と判断する要素

  • 有効化した国数が少ない
  • 特許の有効性に自信がある(強い権利である)
  • 権利の重要度が低い(実施予定がない/代替技術がある)
  • 防御のための特許で権利行使の可能性が低い

 オプトアウトをする場合、期日(2023年5月31日)直前には手続きが集中する虞がありますので、早めに判断、申請の依頼をすることをお勧めします。

弁理士 立川 幸男

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