特許が認められるための要件
技術的な思想である発明を創作すると、特許を受ける権利が発明者に発生し、発明者は特許出願することができます。しかしながら、特許出願されたすべての発明に対して特許権が付与されるわけではありません。特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的としています(特許法第1条)。この法目的を達成するために、特許法には特許が認められるための様々な特許要件が定められています。主な特許要件には次のものがあります。
- 発明であること(特許法第29条第1項柱書)
- 産業上利用可能であること(産業上利用可能性、特許法第29条第1項柱書)
- 新規なものであること(新規性、特許法第29条第1項第1~3号)
- 進歩性を有するものであること(進歩性、特許法第29条第2項)
- 先願であること(特許法第29条の2、同第39条)
- 公序良俗を害しないこと(特許法第32条)
以下、これらの要件について順に説明していきます。
発明であること
特許法において「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものと定められています(特許法第2条第1項)。
発明は自然法則を利用したものであるため、それを利用しない人為的な取り決めや、フォークボールの投げ方といった技量や熟練を伴うものは発明ではありません。
発明は技術的思想の創作であるため、目に見えない技術的なアイデアを対象としています。技術的思想が自ら創作したものであれば、それが客観的に新しくなくても(後に説明する新規性がなくても)発明に該当します。
発明は技術的思想の創作のうち高度のものであるため、程度の低いものは発明から除かれます。ただし、この規定は、実用新案法上の考案との関係から、考案のうち技術水準の低い部分は包含しないという趣旨で設けられており、いわゆる進歩性のような高度の水準を求めるものではなりません。
産業上利用可能性
特許法は産業の発達に寄与することを目的としていますので、特許権は、産業の発達に寄与する発明に対して付与され、産業以外の分野だけで利用される発明に対しては付与されません(特許法第29条第1項柱書)。
例えば、個人的にのみ利用される喫煙方法の発明や、学術的・実験的にのみ利用される発明は、特許の対象にはなりません。また、産業には生産業やサービス業が含まれますが、医療業は含まれません。医療業は人体を必須の構成要素とするものであり、人の手術方法や治療方法の発明がそれに該当します。ただし、医薬や医療器具、人以外の動物の治療方法等の発明は、産業上利用することができるため、特許の対象になります。
新規性
特許法は、技術の累積的進歩によって産業の発達に寄与することを目的とします。そのため、創作したアイデアがこれまでにない新しいアイデアであること(新規性)を特許要件として定めています。
特許法第29条第1項には、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができると規定されています。
- 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
- 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
- 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
つまり、特許出願よりも前に社会に公開されている発明は新規性を有しないものとして、特許を受けることができません。このような発明に独占排他件である特許権を付与するとすれば、第三者の自由実施を害し、かえって技術進歩の妨げとなり、法目的(1条)に反するためです。
ただし、新規性を有しない発明に対しても、一定の条件のもとに、未だ新規性を喪失しなかったとみなす例外規定が特許法第30条に定められています。
進歩性
特許法は、上記法目的を達成するため、簡単には思いつかないアイデアであること(いわゆる進歩性)を特許要件として定めています。
特許法第29条第2項には、進歩性について次のように規定されています。
特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
つまり、特許出願よりも前に社会に公開されている発明に基づいて、いわゆる当業者が容易に発明をすることができたと認められる場合には、発明は進歩性を有しないものとして、特許を受けることができません。このような発明は、日常の産業活動において常になされるものであり、技術を飛躍的に進歩させるものでないばかりか、このような発明に独占排他件である特許権を付与するとすれば、むしろ産業の発達を阻害することとなり、法目的(1条)に反するためです。
進歩性の判断の取り扱いについては、特許庁が発行する特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節に詳細に説明されています。詳細を確認したい方はこちらをご覧ください。
先願であること
特許法では、一つの発明についてはただ一つの特許を付与すべきであるとする一発明一特許の原則に基づき、先願であることを特許要件に定めています。一発明一特許の原則は、重複特許(ダブルパテント)禁止の原則とも言われます。
特許法第39条第1項には次のように規定されています。
同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。
つまり、法は同一の発明について複数の特許権を付与することを認めず、それを担保するために、産業の発達に寄与するという法目的(1条)に則り、最も先に出願し発明を開示した者に対してのみ特許を認める先願主義を採用しています。
公序良俗を害しないこと
新規性や進歩性等を具備する発明であっても、法の究極目的である公益の増進のため、特許権を付与することが妥当でない発明も存在します。そのため、特許法第32は、特許を受けることができない発明について、次のように規定しています。
公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明については、第二十九条の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
「公の秩序」とは、国家社会の一般的利益を意味し、「善良の風俗」とは、社会の一般的道徳観念を意味します。
つまり、特許法は特許権を付与することが妥当でない公益に反する発明を特許の対象から除外しています。
まとめ
ここまで説明してきたように、特許権を取得するためには創作したアイデアが特許法に定められた様々な特許要件を満たす必要があります。技術的なアイデアを創作した際には、そのアイデアに特許性があるか否かを確認したうで特許出願することをお勧めします。
特許性や特許出願について疑問や質問がある場合には、お気軽にご相談ください。ご相談はこちら
弁理士 立川 幸男