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公開日:2023.05.01
更新日:2023.05.01

実用新案の特許との違い

1.はじめに

 本稿では、実用新案は特許とどこが違うのか、また、なぜ特許制度と似た実用新案制度が存在するのか、について説明します。

2.実用新案と特許との違い

2-1.対象

 特許制度の対象は、発明であり、「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを言います(特許法第2条第1項)。一方、実用新案制度の対象は、物品の形状、構造又は組合せに係る考案であり(実用新案法第1条)、「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作を言います(実用新案法第2条第1項)。

 すなわち、特許制度では、物の発明だけでなく、方法の発明も対象にしているのに対し、実用新案制度では、物品の形状、構造又は組合せに係る考案が対象であって、方法の考案は対象ではありません。また、特許の「発明」と実用新案の「考案」とでは、技術的思想の創作という点で共通しますが、「考案」には高度性は要求されていません。高度性は、登録要件の1つである進歩性にも関係しています。特許法では、公知発明に基づいて「容易に発明をすることができたときは」特許を受けることができない(特許法第29条第2項)と規定されています。一方、実用新案法では、公知考案に基づいて「きわめて容易に考案をすることができたときは」実用新案登録を受けることができない(実用新案法第3条第2項)と規定されています。

2-2.存続期間

 存続期間は、特許が出願日から20年である(特許法第67条第1項)のに対して、実用新案は出願日から10年です(実用新案法第15条)。

2-3.登録までの手続

 特許法では、審査請求(特許法第48条の2)が行われた後に、新規性や進歩性等の実体的登録要件を満たすか否かの実体審査を受けてから特許が登録されます。一方、実用新案法では、様式等のチェックを行う方式審査(実用新案法第2条の2第4項)と、考案が物品の形状、構造又は組合せに該当するか否か等のチェックを行う基礎的要件審査(実用新案法第6条の2)は行われるものの、審査請求は不要であり、実体審査は行われずに実用新案が登録されます。このため、実用新案制度は、無審査登録制又は無審査主義等と呼ばれます。

2-4.無審査登録制による弊害を防ぐための制度

(1)実用新案技術評価制度

 無審査で登録された実用新案権の有効性は、原則として当事者間の判断に委ねられます。しかし、その判断は困難であるため、客観的な判断材料を提示するために実用新案技術評価制度が設けられました(実用新案法第12条)。実用新案技術評価書は、出願中又は登録された実用新案の新規性や進歩性等の要件に基づく有効性を示すものであり、請求により特許庁の審査官が作成します。実用新案技術評価は何人も請求することができます。

 また、実用新案の権利者は、実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、実用新案権を侵害している者に対して侵害訴訟等を起こすことができません(実用新案法第29条の2)。権利者による権利の濫用や、第三者の不測の不利益を防止するために、このような規定が設けられました。

(2)訂正回数の制限

 特許は、登録後において、訂正審判(特許法第126条)により、又は、無効審判が起こされた場合の訂正の請求(特許法第134条の2)により、何度でも、明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正ができます。

 無審査登録制の実用新案において、特許と同様の訂正を認めると、出願当初に不当に広い権利範囲の請求項を作成し、その後、実用新案技術評価書や無効審判でその実用新案を無効にする先行技術が提示される度に、第三者の製品を含み、かつ提示された先行技術に対して無効理由のない請求項に訂正することが可能になります。このようなことが認められると、第三者の調査負担が過大となります。一方、訂正を全く認めないのは権利者に酷です。そこで、登録後の実用新案の訂正は、1回に限り認められます(実用新案法第14条の2)。

2-5.変更出願

 特許出願から実用新案登録出願への変更(実用新案法第10条)、実用新案登録出願から特許出願への変更(特許法第46条)、及び、実用新案登録に基づく特許出願(特許法第46条の2)が可能です。元の出願又は元の登録の出願日が、変更後の出願の出願日とみなされます。しかし、登録された特許に基づいて実用新案登録出願をすることはできません。

3.実用新案制度の沿革と目的

 日本における最初の実用新案法は、特許法から20年遅れて、1905年(明治38年)に制定されました。清浦農商務大臣は、実用新案法を検討した衆議院の委員会の冒頭で、法案提出の趣旨として以下のことを述べています。この発言から、この実用新案法の主な目的は、小発明の保護だと思われます。

  • 発明は特許法で保護され、意匠は意匠法で保護されているが、発明と意匠との中間にあたる実用新案的新工夫については保護されていない。
  • 実用新案的新工夫は、特許を与えるほどのものではないが保護が必要である。
  • 安っぽいものに特許を与えるわけにはいかない。
  • 我が国のごとき家庭工業、すなわち手先指先の諸工業の最も盛んなところにおいては一層実用新案法の如き規定を要する。

 現行の実用新案法の制定時(1959年(昭和34年))の審議会で、実用新案法の廃止も検討されました。しかし、発明の水準をある程度高く維持しながら同時に創作意欲の減退を防ぐためには、特許法で高い水準の発明を保護し、実用新案法で比較的程度の低い考案を保護することが合理的であることや、当時は実用新案の出願件数が多かったことを踏まえて、実用新案制度が残りました。

 1980年までは、実用新案の出願件数は特許出願件数よりも多かったものの、1981年以降は、特許出願の件数の方が多くなりました。さらに、1987年(昭和62年)の特許法改正で多項制が改善された後、それまで約20万件あった実用新案の出願件数が、1992年(平成4年)には約10万件に減少しました。1993年(平成5年)の実用新案法の改正では、出願後早期に実施される製品や、ライフサイクルの短い製品を適切に保護するため、無審査登録制度が導入されました。権利の存続期間が公告日から10年(出願日から15年を超えない)でしたが、出願日から6年に短縮されました。このように、この改正によって、実用新案の目的に、小発明の保護だけでなく、ライフサイクルの短い製品の保護が加わりました。しかし、この改正後、実用新案の出願件数は、改正前の1993年(平成5年)の約7.7万件から、改正後の1994年(平成6年)の約1.6万件に急減しました。

 2004年(平成16年)の実用新案法の改正では、存続期間が6年から10年に拡大され、登録後の訂正の許容範囲が拡大され、実用新案登録に基づく特許出願制度が導入されました。

4.終わりに

 2021年の特許出願件数が289,200件なのに対して、2021年の実用新案登録出願件数は、5,239件と、特許出願に比べて2%以下です。このように、現在(2023年)では、実用新案制度は、特許制度に比べて人気のない制度となっています。しかし、特許では進歩性の要件を満たしそうもない物品について権利を取得したい場合や、特許の早期審査(所定の条件を満たす出願を通常よりも早く審査する制度)の条件を満たさないが早期に権利を取得したい場合等には、実用新案による出願は有効だと思われます。

弁理士 高尾 智満

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